リレー随想

2025/08/08
No.264 2025年8月号 2012年度卒 手嶋 光
「人と酒との素敵な出会いがあったから、今の私がある」

 バトンを渡していただいた郡司さん、そして松本さんは卒業した現在もたまに連絡を取り合う仲です。そんな出会いを与えてくれた高崎経済大学にはとても感謝しています。
はじめまして。経済学部 経済学科 2013年卒の手嶋と申します。高経は年の離れた兄の出身大学でもあり、兄弟共々お世話になりました。

 私は現在、和歌山県で日本酒・リキュール・クラフトビールを作る酒蔵に勤務しています。大学を卒業して12年程。あまり大学生活を振り返ることは少ないのですが、折角の機会をいただきましたので、大学時代の思い出を振り返ってみたいと思います。

 高校からの親友と一緒に受験・合格し高崎経済大学に入学した2009年4月。さまざまな部活・サークルが新歓を行うなか、私は兄が在学時代に所属していたと聞いていた「ゼミナール協議会」に親友と共に向かい、入会の説明も聞かず「入ります!」と決意を伝えました。今思えば、この時の決断が自身の人生を大きく左右したと思っています。
 当時のゼミナール協議会は学外で開催される弁論大会の運営や、大学の事務局と連携した就職支援、学術支援を行っていました。さまざまな人と関わりながら企画・運営を行うため「●●をするためには」「▲▲の取り組みを行うためには」といった議論を連日夜まで交わし、時には喧嘩のような言い合いをしながらも、より良い活動を行うために熱く語り合っていました。地域政策学部ゼミナール協議会の皆様ともその時に知り合い、苦楽を共にした仲です。同級生はもちろん、尊敬できる先輩・後輩に恵まれ、とても有意義な時間を過ごすことができました。

 2年生の後期からスタートしたゼミ活動も大きな思い出です。私の代では、はじめて「高崎経済大学のCSR報告書を作成する」ことを掲げ、ゼミの先生である水口先生と一緒に考え、悩みながら報告書作りを進めました。3年生の時にはゼミの1コマとは別に週5コマのサブゼミを設けるなど、かなり濃密なゼミ活動を実施。時間をかけていろんな議論を交わしながら、最終的には何とか完成させられたこと、そして完成した時の達成感は今でも覚えています。

 こうして大学生活を振り返ると、私は本当に周りの人に恵まれたと感じています。偶然なのか、それとも高崎経済大学の特色なのか、私の周りには行動力や信念と言った、ある種の「軸」のようなものをしっかりと持っていた人が多かった印象です。私自身はそのような軸は持っていなかったのですが、大学時代に出会った人々から得た経験や話し合った時間が、確実に今現在の私の「軸」となっていると実感しています。

 冒頭でお伝えした通り、私は現在酒造りに関わる仕事をしているのですが、いまの会社には酒業界全体の未来を明るく切り拓くために、前例の無い取り組みやチャレンジを積極的に行う社風があります。そんな弊社にも、大学生活同様に何かしらの「軸」を持った社員が多く、皆で一緒になって酒造りと真摯に向き合い、新たな事業を推進させるための取り組みを、悩み考えながら毎日を過ごしています。
 そして、奇しくも「酒」はゼミ協での会議後やゼミ活動後に浴びるほど飲んだ、大学生活を語る上で切っても切り話せない大切な存在でもあります。お酒があることで、食の場や人の場がとても幸せな空間になることを、学生時代に何度も経験しました。これら培った人生観や経験が、もしかしたらいまの仕事に惹き合わせてくれたのかもしれません。

 大学を卒業して12年程。同級生や先輩・後輩と直接会う機会はめっきり減りましたが、今度またどこかで、学生時代にこよなく愛飲した「赤城山」や「水芭蕉」でも飲みながら、リレー随想を投稿する機会をくれた郡司さんや松本さん、そして次にバトンを渡す方と一緒に大学時代の話でもしたいと思います。
 次のバトンは大学の先輩であり、ご卒業された後の方がお会いする機会が多かったのでは?と思う、とても優しく頼もしい方にお繋したいと思います。
(和歌山県在住)
2025/07/18
No.263 2025年7月号 2011年度卒 郡司 弘明
「手を挙げた先にあった、想像もしなかった未来」

松本悟さんからバトンを受け取りました、郡司弘明と申します。
 
現在は、ビジネスイベントの企画や運営に携わっています。多くの人の挑戦や出会いのきっかけとなる「場」をつくることに、大きなやりがいを感じながら日々を過ごしています。
このような仕事に向き合ううえでの価値観や、人との関係の築き方についての感覚の土台は、間違いなく高崎経済大学で過ごした4年間のなかで育まれました。今の自分の軸は、その大学生活のなかに詰まっていると実感しています。
私は福島県出身です。高校時代は、進路や勉強以上に、人間関係の悩みを抱えることが多く、思い悩む場面も少なくありませんでした。
当時の私は、人との距離感に悩むことが多く、どこか自分に自信を持ちきれずにいました。うまくいかないことがあるたびに、「やっぱり自分には向いていないのかもしれない」と感じてしまうこともあり、気づけば自己肯定感が少しずつ下がっていたように思います。
そんな背景もあって、大学進学で地元を離れ、新しい環境に身を置くことは、私にとってひとつの大きな転機でした。
「ここから自分を変えていきたい」という気持ちをどこかに抱きながら、私は高崎の街に足を踏み入れました。

高崎経済大学には、全国から個性豊かな学生たちが集まってきます。都市部だけでなく、私のように地方から上京してきた学生も多く、それぞれが異なる背景や価値観を持っていて、誰かと比べるのではなく、自分自身の色を持つことの大切さを教えてくれる空気がありました。
最初に踏み出したのは、大学生活が始まってすぐ、何かに関わってみたいという思いから参加した地域政策学部ゼミナール協議会の定期総会でした。この協議会には本来、ゼミに所属する3年生から参加するのが通例で、1年生の私が顔を出すのは極めて珍しいことでした。場違いかもしれないという不安も抱えながら、それでも会の雰囲気や先輩たちの真剣な議論に心を動かされ、「自分も関わってみたい」と思い、「参加したいです」と声を上げました。
その当時、制度上はまだ1・2年生の正式な参加は認められていませんでしたが、非公式な形で活動をスタートしました。翌春の新入生勧誘では、何人かの1年生が「会則が変更されることを前提に」、活動に加わってくれました。後輩に私も大きく背中を押される形で、2年生で会則の改定を提案し、協議会内での議論を重ねたうえで、地域政策学部の総会にて正式に承認されました。その後、2年間、協議会の会長を務めさせていただきました。
この会則改定により、私自身も制度のなかで正式に活動できるようになり、1年生の参加も制度として整備された新たな協議会運営がスタートしました。

その年に加わってくれたのが、今回バトンを渡してくれた松本悟さんです。彼をはじめ、優秀で熱意ある後輩たちが数多く参加してくれたことは、当時の私にとって大きな励みであり、誇りでもありました。
制度や組織のあり方を自分たちの手で考え、形づくっていくという経験は、学生生活のなかでもとても得難いものでした。それまで「決められた枠の中でどう動くか」を考えていた自分が、「その枠自体を必要に応じて見直し、変えていく」という視点を持てるようになったのは、まさにこの経験のおかげだと思います。

また、戸所先生のゼミでは、榛名神社周辺の社家町活性化プロジェクトに取り組みました。地域の歴史や文化に触れながら、どのようにそれらを未来へとつないでいけるかを、現地の方々とともに考え続けた日々。教室では学べない“地域のリアル”と向き合いながら、仲間とともに過ごした時間は、言葉にしがたいほど濃密で、今でも鮮明に思い出されます。

群馬県という土地には、人と人との距離が近く、互いを思いやる温かさがあります。決して派手ではないけれど、素朴で、実直で、人とのつながりを大切にする文化。地域の方々とのやり取りの中で、私は「つながる」ということの意味を実感として学ぶことができました。

三扇祭の運営を取り仕切っていた三扇祭実行委員会とも同じ学生団体同士で連携しており、その関わりのなかでは、のちに妻となる人と出会うことができました。どこでどうつながるか分からない大学の人間関係のなかで、自分が最初に踏み出した一歩が、めぐりめぐって人生の大切な出会いにつながっていたことに、後から気づかされました。

今でもよく思い返すのが、2011年3月11日、東日本大震災の日のことです。ちょうど福島に帰省していたタイミングで被災し、原発事故の影響もあって、家族と過ごした日々には言葉にできない緊張感がありました。当たり前のように存在していた日常が、一気に崩れていく感覚。その中で、「ただ“普通”に接してくれる」人たちの存在が、どれほどありがたかったかを痛感しました。
高崎に戻ってからも、大学の友人たちがさりげなく寄り添ってくれました。「大丈夫?」と声をかけてくれたり、普段通りの調子で話してくれたり。大げさなことではなく、日常の延長にあるやさしさが、何よりの支えになりました。

こうして振り返ってみると、高崎経済大学での4年間には、ここに書ききれないほど多くの人との出会い、知識との出会い、経験との出会いがありました。どれもが、自分にとっての“かけがえのないピース”だったと思います。そしてそのすべては、たったひとつの「参加したいです」という言葉から始まりました。ほんの小さな一歩が、新しいつながりを生み、人生を少しずつ動かしていく。
大学時代の経験は、そんな感覚を教えてくれたように思います。あの一歩がなければ、松本さんはじめ多くの友人たちとも、妻とも、そして今の自分自身とも出会っていなかったかもしれません。

高崎経済大学には、私の青春のすべてが詰まっています。悩み、模索しながらも、少しずつ自分を肯定できるようになっていった時間。
個性豊かな仲間と出会い、地域の温かさに触れ、自分の小さな変化を積み重ねていけた場所。その過程で出会った仲間や経験は、今も私のなかで静かに息づいています。

このバトンは次回、私が大学時代に出会い、信頼する仲間のひとりへとお渡しします。
このリレーがまた、誰かの歩みを前に進めるきっかけになりますように。
(埼玉県在住)

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