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                          1990年卒 五十嵐夏子


「人間万事塞翁が馬」

 リレー随想を…とお話をいただき何を書こうか思案した時に、私の高経大生活に大きな影響を与えたこの言葉を思いだしたので、このことについて少しお話したいと思います。 この言葉は言わずと知れた中国の故事で、人生というのは何がいいことなのか悪いことなのか最後までわからないという意味ですが、私がこの言葉に特別な思いがあるのは、かつて第一志望だった某国立大学受験に失敗し落ち込んでいた私に、隣に住んでいた祖父が便箋一枚にこの言葉と意味を書いてそっと渡してくれた言葉だったからです。
 当時の大学受験時は今とは違い、共通一次試験の後に国立大学1校、公立大学1校しか受験ができない日程で、浪人はダメと親にきつく言われていた私は、高経大に入学する道しか残されていませんでした。工学部に行きたかった私は、経済学部、しかも男性がほとんどの高経大に行かなければならない、そして何より受験失敗のショックが大きく、かなり落ち込んでいました。
 そんな時、祖父から届けられたこの言葉は、人生いいことも悪いこともあるけど、悪いことはなおさらそのことをネガティブに捉えるのではなく、その先の人生にとって何か意味があるんだと思わせてくれ、落ち込んでいた私を前向きに高経大の入学へと導いてくれました。その結果、本当に充実した楽しい大学生活を送り、いろいろなことにもチャレンジし、そして何より何事にも換え難い友達を得ることができました。また、こうして諸先輩方後輩方と繋がるご縁もいただきました。あの時、ネガティブな気持ちで大学生活に入っていたら、きっと得られたものはもっと少なかった気がします。(余談ですが、他大学の友達からは、縦、横とも人間関係の密な大学生活をよく珍しがられ、羨ましがられます。ほんと、高経大に入学してよかった(笑)。)
 祖父は私が大学在学中に亡くなりましたが、大学を卒業し、生まれて初めて高崎を離れ東京に向かう朝、私はこの便箋を手元のバックに入れ上京しました。あれから、社会で様々な経験をし、いくつもの転機を迎えましたが、苦しいことや辛いことがあると、この言葉を思い出し、気持ちを切り替え今日まで歩んできました。
 人生まだ道半ば、昨今の社会情勢やニュース、また自分自身を取り巻く環境も厳しさを増していますが、いくつになっても辛い時にこそ「人間万事塞翁が馬」、悲観的な考えにとらわれず明るくポジティブに進んでいきたいと改めて思う今日この頃です。